大阪ATCのアバターまつりでおしゃべりなアバターたちの可能性を感じる体験をした

ITテクノロジー

みなさんは、ロボットやバーチャルキャラクターが日常生活の一部として動き回ったり会話したりしている社会を想像できますか?

アバターまつりは、そんな社会を垣間見せてくれるイベントです。

私はこのイベントをわざわざ大阪まで行って見に行って参りましたので、この記事やこの後紹介する動画でその雰囲気を感じ取っていただければと思います。

そもそもアバターとは?

アバターまつりと名のつくイベントですから、アバターの意味を語らずにはアバターまつりを語ることはできません。

アバターまつりのQ&Aでは、「遠隔操作ができて、自分の体と同じように感覚を共有できる『身代わりロボット』のこと」を「アバター」、もしくは「サイバネティックアバター(CA)」として紹介しています。大型あるいは小型のロボット、バーチャルキャラクターに人やAIが入って、それを遠隔で操作することができます。

サイバネティックとは、インターネットやコンピューター科学を、機械に人間の頭脳的仕事をさせるという側面から見た語です。

ムーンショット目標 - 科学技術政策 - 内閣府
ムーンショット目標

サイバネティックアバターの研究は、内閣府が推進する、将来の課題解決に向けて革新的な技術開発を目指す挑戦的な研究プログラムであるムーンショット目標の一つとなっています。

目標1「 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」では、サイバネティックアバターによって、いつでもどこでもどんな障害があっても仕事や生活をしたり、サイバネティックアバターによって新しい感覚や体験を覚えたりすることが身近になる社会を目指しています。

ここで間違えないようにしないといけないと思うのが、サイバネティックアバターとは、AIロボットとはまた違う概念であるということです。

ムーンショット目標の3つ目には「2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現」があります。

こちらはまさにドラえもんのようなものを作る試みで、AIロボットもある意味でサイバネティックアバターの仲間ですが、サイバネティックアバターは人間が入ったり感覚を共有したりコミュニケーションできるもの全般という意味で、普通のAIロボットとは一致しない特徴もあります。そのため、ただの「コミュニケーションができるAIロボット」よりも広い概念になっていると思います。

どんなサイバネティックアバターがあるかは、実物を見てもらった方が早いと思うので、ぜひ見ていってください!

アバターとの一部会話を以下の動画にまとめました。記事と併せてご覧ください。

アバターたちと戯れる

2023年7月中旬。大阪メトロニュートラムのトレードセンター前駅を降りて、ATCと呼ばれる建物の中へ。ATCとは、たくさんのお店、ショールーム、オフィスなどがあり、さらには別府行きや志布志行きのフェリーさんふらわあが出ている大規模な複合施設です。

建物に入って早速、こんな感じにCGアバターが何体も並んでいる姿を見ました。CGなので簡単に頭髪の色を変更できますし、それも日本特有のアニメ的表現のおかげで違和感がないです。どうやらATCの中にはアバターが100体くらいいるらしいです。

大阪には前日入りしたのでATCには10時くらいに着いて、平日ということもあり人もかなり少なかったので、最初はしばらくサイバネティックアバターがATCを闊歩する様子を遠くから見ていました。

私は人見知りなもので、初対面の人に話しかける・話しかけられるのが辛いタイプの人間なのですが、サイバネティックアバターでもそれは一緒であるということが分かりました。私はこういう場で慣れない人に話しかけようとする時に目の前に着いてから15分くらい悩むことがあるんですよね。

ロボットアバターの持つ外向的な習性

彼らロボットは、少し離れたところにいても、人がロボットを見ると、その人を見つけて目線を合わせてきます。人間も会話中流石にずっと目を見続けるわけではなく、顔の周辺や虚空に焦点が会う時もあると思うので、一部の人にとってはこの様子には少し驚くかもしれません。

これは、ロボットには人間とは違う独特の事情があると考えます。

ロボット、特に自分で動かないロボットアバターは、アバターに親近感を持ってもらう必要があります。

そのためには、相手に対して「僕は敵じゃないよ」「君のことが気になるな」という意思表示として目線を見つめてきます。

人間や人間そっくりのヒューマノイドは、ずっと見続けられたら怖いですが、一部のロボットアバターは人間よりも動かせる部分、つまり特徴量が少ないのです。人間ほど緻密で細やかな動きができないので、それなら見つめ続けていた方が目を一旦逸らすとかいう余計なプログラムを組み込まなくてもいいですし、目の前の人間に忠誠であるという意思表示にもなります。

加えて、こうしたロボットアバターは大概デフォルメされて可愛らしい見た目をしているので、ずっと見つめられても怖くないのです。もちろんそれなりの演出をすればホラーにもできましょうが…

そして、そうやって見つめることで、人間も彼らロボットアバターに注目してくれて、さらなる会話が始まりやすくなるということなんだと思います。実際に人間はロボットであっても見つめられることに気づくとその見つめられている物体に注目を引く生物ですからね。

だから、ロボットアバターは人を見つめ続けるんですね。

ただし、これはロボットアバターに外向的に設計されたAIや外向的な性格の人間が入った場合に起こることで、内向的な場合は単純に話しかけようとも思わないと思うかもしれません。ただ、こうしたアバターワークは外向的な性格の方が向いている節がありますし、従って自ずとこれらアバターは外向的な性質を持つということなんだと思います。

トヨタ自動車・HSR(Human Support Robot)

ロボットを避けながら歩いていると、ロボットとそれを見守る人たちに捕まりました。このロボットは、トヨタ自動車が開発したHSR(Human Support Robot)というロボットです。(動画0:35

もともと高齢者や障がい者などに向けた生活支援ロボットとして作られましたが、このアバターまつりにおいてはATC内を巡回しながらアームや言葉を使いコミュニケーションを行います。

そして、チラシをロボットに手渡したお兄さんと、ロボットにどうぞ、と言われてチラシを渡されました。

お兄さんからチラシ渡されてから、実際に僕が受け取るまで30秒くらいかかりました。人で渡した方が早いじゃんと思うかもしれませんが、それを言ったらロボットの意味がなくなりますのでね。

むしろロボットも紙を破らずにちょうどいい力の掛け方でチラシを持てている点、相手に合わせて安全に適切な手の動きをしている点は、これらを達成するだけで難しいものがあるので、それは評価に値します。

今回は体験しなかったですが、このロボットは遠隔操作型で、まだこうした複合施設、商業施設の中でどのようなことができるかを実験している段階と言えるでしょう。

VTuberだけじゃない?中身が人になったりAIになったりするCGアバターと触れ合おう

最初に見たあの銀色の髪のバーチャルキャラクターを、操作できる場所があります。次にそこに行ってみました。このソフトは、名古屋工業大学の学生が作成したようです。

まず名工大生によるデモ会話を見た(動画1:39)後、実際にソフトを触ってみました。こういう体験は2人以上人がいると楽しそうですね。

あまりソフトの画面を映すのは良くないと言われたので映しませんが、彼らは自作のソフトを開発して、それでもってCGアバターを動かしているっていうんですね。

仕組み的には、それこそVTuber配信ソフトである3teneやVMagicMirrorにありがちな感じで3Dモデルを動かして、AIさくらさんみたいなリアルの躯体やディスプレイに表示させるみたいなソフトです。iFacialmocapというアプリでトラッキングしているあたり、まさにVTuberっぽいです。

CGモデルの側面としては、表情を詳細に設定できたり、手や腕を動かせたりできたりと、かなりクオリティの高いものとなっていて、ソフトとして見惚れました。

また、彼らはVTuberとは違う用途で、主にアバターワークなどに活用することを目指して開発をしています。

こうした技術を見ると、私からしたらどうしても現在流行っているVTuberのイメージが強いわけですが、エンターテイメント以外の用途にも使えるんだという可能性を感じました。

操作した感想

実際に操作した感想としては、やはりVTuberの配信アプリと似たような感触があるのを覚えました。

ところが、この装置はかなりハイスペックなもので、モーショントラッキングモードととプリセットで表情を出せるモード、ボイスチェンジャーなど、かなり優れたものとなっています。AIモードも搭載されているんじゃないんでしょうか。

いくつかウィンドウがありまして、CGアバターの見た目やCGアバターの目の前の様子を確認することができます。CGアバターの見た目の横にあるCGアバターの視界を示すカメラの映像がモニタリングみたいな感じで面白いですよね。

まさにこの出力方式の違いが、VTuberの配信ソフトなどとの大きな違いです。これがOBS経由でYouTube LiveやTwitchなどの媒体に流れたり、mp4で出力したりデスクトップ上に表示させたりできるのが現に配信ソフトと呼ばれているものの類ですが、これはサイバネティックアバターの用途ではありません。

ここで出てきたCGアバターが、アバターを介した接客などの、アバターワークと呼ばれる仕事にあてられるわけですよね。将来的にこのような仕組みが10年後20年後にはごく普通になっているということに改めて気づくと、とてもワクワクしてきます。

物理やジェンダー、数の壁を越えるアバター

ファイルをいただきました。この銀色の髪のキャラクター、名前があるみたいで、「ジェネ」というらしいです。

このキャラクター設計にも大変配慮したという話を伺いまして、「ジェネ」が中性的な見た目になるように気を遣ったと言います。

やはりどちらかの性のアバターに限定させるよりは、どっちの性別ともつかないような見た目のアバターを作って、男性も女性も男女の枠にとらわれない方も、アバターに入って、VTuberのようなバーチャルキャラクターとして、コミュニケーションをとることができるようです。

VR SNSやメタバースなどでもそうですが、こうしたバーチャルキャラクターは空間や、物体の制約の壁のみならず性別の壁すら取っ払って自分のなりたい姿になれるということで、実は私がとても興味を抱いている分野の一つであります。VRやメタバースの世界し、メタバース上での創作もたくさんしてみたいです。

このソフトやアバターまつりのアバターに関しては現実とのインターラクト・対話に重きを置いているということで、MRとはちょっと違う分野かもしれませんが、VRやメタバースと合わせて、サイバネティックアバターとしてXR関連のトピックとして個人的に注目していきたい分野であります。

さらに、このソフトは1人の人間が複数のアバターを操作することも想定されていて、それこそ大規模ショッピングモールの各所に置いておいて、普段はAI(ChatGPTなどの対話システム)を使って応答して、情報を詳しく伝えなければいけない場面にはその時だけ中に人間が登場して応対するなんてことが用途として想定されます。

人間とAIをハイブリッドさせて提供している辺りがAIさくらさんにはない強み(AIさくらさんでは、生身の人間が出てくるが、この技術では遠隔で人間が登場することができる)であり、新しい働き方の可能性を示唆する展示です。

お年寄り向けの介護ロボット

変わってこちらのロボットは、ソニーグループが開発する子ども型介護見守りロボット、ハナモフロル(HANAMOFLOR)と呼ばれるものです。「はなちゃん、と呼んでね」と自分で言っていましたね。

子供型ということで、女の子をイメージして開発されたのか、女児のような甲高い声を出して、ゆっくり丁寧な言葉遣いで、フレンドリーに語りかけてきます。字幕起こししたらぜんぶひらがなでこたえてきそうなイメージです。

高齢者と話を合わせるのは、介護の仕事や人と触れ合うことが好きじゃない人からしたら苦痛に感じることでしょう。しかし彼女は、苦痛を感じることはありません。丁寧に、ゆっくりとおしゃべりをするので、高齢者や障がいを持った人にも親しみやすく、彼らにとって良き喋り相手となってくれます。

彼らは介護の仕事を代替するのは難しいでしょうが、例えば老人ホームでレクリエーションの時間やお遊戯の音頭をとるなんてことができるかもしれません。

一緒に童謡などの歌を歌えるので、幼稚園においてもいいかもしれませんね。実際には、幼稚園から小学生くらいの子供が興味を引いていました。

一部の人々は処理速度が遅いと感じるかもしれませんし、開発途上のサイバネティックアバター用のロボットの動作は概ね安全性を鑑みてかゆっくりです(安全性を鑑みたとしても遅いと思います)。

しかし、処理速度が遅いことを逆に武器にして、むしろ遅い方が歓迎される職場を彼らの天職にするという開発者の逆転の発想を感じられました。

なお、今回は分かりませんでした(多分入っていないと思います)が、人が中に入ることもできます。

アバターのカメラで記念撮影!

ATCの2階のウェルカムゾーンを首を上下に動かして闊歩しているロボットがいます。移動型ロボット、テレコ(Teleco)です。

顔と上肢の部分は小さいのですが、それに対して裾野から足にかけての部分はかなり大きいです。

人が歩く速度で障害物を避けながら動けるということで、広い空間の中で避けながら顧客を目的の場所に誘導できる役割が期待されます。アバターまつりではお客さんと一緒に移動しながら館内を案内します。

人が歩く速度で障害物を避けながら動けるということで、広い空間の中で避けながら顧客を目的の場所に誘導できる役割が期待されます。アバターまつりではお客さんと一緒に移動しながら館内を案内します。

何ができるかと思って、「道案内はできるんですか?」と聞いてみると、テレコは「道案内は今日の僕のミッションじゃないんだ」と突っ放されてしまいました(動画5:11)。

狼狽していると、続けて僕の仕事はロボットと写真を撮ることだみたいなことを言われたので、なんだそれはということでいくらかの会話を経たのちにコミューの元ヘ向かいました。

その時、人間である私を引き連れてコミューの元ヘ行くわけですが、その仕草が面白いんですね。まず首の部分を上下に動かしながら移動してます。

ぶつかろうとしてかわすテレコ(Teleco)2体。左のテレコは奥から手前にやってきて、右のテレコは奥方向へ私を誘導している。

それから別のテレコの機体とぶつかろうとしたときに、お互い察しあったのか分かりませんが、まるで人間が都会の駅で人ごみをかき分けて歩くように華麗に交わして進みました(動画7:07)。

我々は通りすがりの人をかわすことは無意識のうちにできると思いますが、ロボットに実装するとなったら話は別です。

今後、ロボットに道を先導してもらう機会が増えるかもしれませんが、この技術なら人混みを気にせずに安心してロボットの後について行くことができる頼もしい存在となっております。

一部の移動型CAは、かなり建物の奥の方へ、会場から外れた方を走行しているのを見ましたが、どうやら建物の中にいるようになっていて、段差などの障害物もうまいことかわせるみたいです。

客引き係のテレコ、応接係のコミュー

テレコがコミュー(CommU)の元へ到着すると、テレコはコミューにため口で語りかけ、事情を説明しました。説明が終わったらコミューのターンが始まります。

普通ロボットが動作を始める時は、それこそChatGPTでもそうですが、人間が電源を入れたりプロンプトを打たないと始まらないじゃないですか。

ところがテレコは、テレコの方から自発的に話しかけて話が始まったし、コミューはテレコの会話がトリガーになって始まったわけです。

この事象を分析してみて、ロボットを動かせるのは人間という当たり前が破られましたね。ロボットを動かすには、ロボットがトリガーでも発動するんですね。それどころか、テレコは、もしかしたら中の人が外交的だったからなのかもしれませんが、テレコは人間のように振る舞っていました。

テレコは実際に体験ができるブースもあったりしたので、実は中身はAIではなく人間だったかもしれませんが、気にしません。今回体験したやつは応対のぎこちなさの感じAIだと勝手に思ってます(少なくとも現地ではAIと信じ切って、AIアバター同士が喋ってる〜!と心の中で感動してました)が、映像を振り返ったところ、一部の部分は言い間違いが人間っぽかったのでそこは人間がやっているのではないかと思います。コミューは聞いた感じ全部AIですね。まあ細かいことは気にせずいきましょうよ。

そして、テレコとコミューでは、移動型CAと非移動型のCA、それぞれできることが違うので役割分担があって、面白いですよね。

一連の会話の様子と、引き継いだコミューと何を作ったかはYouTubeの動画でお楽しみください。

まだまだいる、生活に溶け込めるアバターたち

その他にも、10体のSotaから褒めてもらうことができるなど様々な展示がありました。

私が訪れられなかったところで、Telecoも動作体験ができたり、エントランスエリアをしっかり見ていなかったり、確実にAIが喋ってるとわかるAI対話の実演・映像展示のあるエリアなど、色々と行き損ねたエリアがありました。時間があったのでこれらにも足を運んでみたかったでしたが、残念ながら気づきませんでした。

アバターの中には、完全にAIだけで動いて、チャットボットのような人工知能みを感じずに会話できるフレンドリーなロボットから、人がサイバネティックアバターの中に入って、アバターたちの一部又は全てを制御できるもの、あるいはそのハイブリッドに至るまで様々なものがあります。

私にとってアバターまつりは、改めてサイバネティックアバターの定義を再確認し、研究ロボットが作る未来の可能性と課題が見えたイベントとなりました。

サイバネティックアバターが作る未来の考察については、記事が長くなりましたので別の記事でさせていただきます。

アバターまつりから見えた、アバター共生社会の可能性と課題
前回、アバターまつりでいろいろなアバターが社会の役に立つ仕事をしている様子を見てきました。 前回の記事をご覧になっていないからはこちらからご覧ください。この記事で取り扱ってもよい内容である、ロボットアバターの外向的な性格についてはこちらで言...

この記事の内容の一部を動画にもしています。何気に自分が声出ししているところを編集するのは初めてやりました。サイバネティックアバター同士の会話が交わすシーンや、一部キャラクターの動きを伴うシーンなどは動画で見た方がわかりやすいと思うので、ぜひご覧ください!

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