スイカゲーム、8番出口のパロディーゲームに見る二次創作ゲームのライン引きについて

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2023年の後半から、スイカゲーム、8番出口といったゲームが流行しました。これら2タイトルはともにインディーゲームで、ちょっとした気晴らしに使えるゲームということで人気を博しています。

今回は、パロディーゲームに対する原作者の思想を考察しながら、二次創作ゲームはどのようにすれば原作者の機嫌を損ねないのかという点について取り上げていきます。

パロディーゲームの多い2タイトル

「スイカゲーム」「8番出口」は、ともにシンプルなルール性で、簡単ながら奥深いゲームとなっています。両作品は、ともに開発の手軽さとゲームデザインの豊かな拡張性によって、パロディーゲームがたくさん出ています。

「スイカゲーム」のパロディーゲーム

「スイカゲーム」は、テトリスと2048に物理演算を混ぜたようなゲームです。Aladdin X(アラジン エックス)株式会社によって開発され、多目的プロジェクターAladdin Xシリーズ、Nintendo Switch、iOSで販売されています。2Dでありその実装の簡便さからも、様々なテーマでもって多数のパロディーゲームが作成されています。

スイカゲーム自体、中国で大流行した合成大西瓜というゲームを日本に輸入してきたものです。丸パクリゲームがいっぱい出てきたせいで「スイカゲーム」を商標登録したことを知っている身からすると、パクった分際で商標かよと思うかもしれませんが、きっとOSに標準でついてくるソリティア・チェスのゲームや世界のアソビ大全51みたいな感じで伝統的な遊びを電子ゲームに移植するようなノリでAladdin X向けに移植しているんでしょう。なにせAladdin Xではプロジェクター内のオリジナルコンテンツに力を入れていますからね。それで追加されたコンテンツです。

丸パクリではないパロディーゲームとしては、Steamで、クジラゲーム北海道ゲームが発売されています。このように、元のスイカゲームのアイディアをインスパイアしつつも、海洋生物・対戦要素、都道府県・ラーメンズ要素といった要素を組み合わせてちゃんと独創性が発揮されているゲームもあります。

Unityroomには、北海道ゲーム、惑星ゲームホロのスイカソ連ゲームSuicaゲーム(ICカード版)などといったパロディーゲームが多数投稿されています。正直2Dのシンプルなゲームなので、物理演算ができればスイカゲームのパロディーに関しては開発はイージーモードです。

当記事のサムネの左上にもあるホロのスイカは、Unity+WebGLでビルドされて、制作者であるTKGames公式のGitHub Pagesで無償で公開されております。しかも、ホロのスイカに関しては台パンイベントに限ってですが箱をシェイクする機能を導入されており、その他にも様々な仕掛けがイベントごとに追加され、プレイヤーを飽きさせません。ホロのスイカは、ホロライブのVTuberの個性を生かす本家にもなかった新規機能でもって独自の進化を遂げています。

「8番出口」のパロディーゲーム

「8番出口」は、地下通路の3D間違い探しゲームです。舞台はよくある地下鉄の通路のようで、どことなくホラー要素も含まれています。コタケノトケケ氏(Steam: KOTAKE CREATE)によって開発され、Steamで販売されています。作者自身も「8番ライク」として、基本的には二次創作ゲームを推進する方向でいます(後述)。

3D間違い探しゲームだったらTiny LandsやI’m on Observation Dutyなんかが先発としてありますが、現代日本風にアレンジして、連続的にして前のステージの失敗を見れるようにし、大衆に流行らせたという点では、今のゲーム設計は「8番出口」に独自性があるんでしょうし、「8番ライク」というジャンルを築いたという点である意味(特に日本では)創始者のひとりとして扱われるということでしょう。

この傾向、スイカゲームと同じですし、5年くらい前に取り上げた2048もThrees!の方が先発でしたよね。だからこういう後発の流行ったゲームが1ジャンルの実質的な創始者になるのってインディーゲーム全体の傾向なんでしょう。

パロディーゲームとしては、現在、海外のパブリッシャーも含めて、エスカレーター2番線The Street 10Station 5、まだ開発中ですが新幹線0号といったゲームがSteamで有料で発売されています。UnityやUnreal Engineといったゲームエンジンで、3D世界での実装が簡便であることから、8番ライクのゲームは3Dゲーム制作の入門に最適と言えるでしょう。エスカレーターではスイカゲームの小ネタも仕込まれています。

無料の8番ライクとしてよく知られているのは13階出口というゲームで、Unityroomに投稿されています(本記事サムネ右下)。本家はUnreal Engineで作られましたが、ファンメイド、手数料が改悪されたUnityという点を考慮してか無償で公開されています。もしかしたら中学生や高校生が作っているので稼げないから、といった理由もあるのかもしれません。こちらはWeb環境があれば無料で遊べます。

オリジナルゲームVSパロディーゲーム

パロディーゲームは、その創造性をまるっきり否定して「パクりゲーム」とひとくくりに悪い扱いをするのもいかがなものかと思います。たとえ真似やパロディであっても、何か扱うものやシチュエーションを変えたりして、その中に改変者の創造性が垣間見れるというのが二次創作ゲームの魅力ですから。

開発者自身もインディーゲーム開発者でインスパイアを含んでいる「8番出口」

この考え方には私も共感です。まさに私の創作哲学ドンピシャじゃないですか。既存のものを再解釈し新たに組み合わせてこそ創作が生まれます。模倣なしに創造は生まれません。実際に作者もI’m on Observation Dutyをインスパイアしたと公言するだけあって、説得力があります。

ところで、この作者はこんなツイートもされていました。

まあ、そうですよね。特にパロディーゲームの実況において8番出口のゲームプレイ画面が一秒も流れないのにサムネに本家8番出口のおじさんがいたら変ですよ。普通にサムネ詐欺で、悪質だととらえられかねません。

しかし、後者の動画タイトルについて、これには少し違和感を覚えました。この文章的表現でどこが境界というのは非常にあいまいなもので、何が地雷に当たるかが非常に分かりにくいものとなっております。

こちらの動画を見てください。

「8番出口再現ワールド」「マイクラ版8番出口」なるものが公開されているわけですよね。もちろんROBLOXにもありました。こういうマリオメーカー、マイクラ、Robloxなどのやろうと思えば何でも完コピできてしまうけどちょっと制約のあるアーキテクチャへの移植について、「マイクラ版8番出口」などと表記することについては、やはり賛否が分かれるものです。

ゲーム名がもし「○○版8番出口」のような、他に名づけのしようがないけど、仕方なく名乗ってしまった名前となってしまった場合、二次創作ゲームのクリエイターの責任はどうなるんでしょうね。私はゲーム名へのこの論理の適用がとんだ与太話であることを信じたいですが、おそらく「○○版8番出口」、「8番出口の続編」といった実況動画を名指しして同じ開発元のように受け取られることを非難しているあたり、原作者は確実にこのようなゲーム・ゲーム実況は本家であると誤認させる、という風に類推してくるでしょう。そこらへんはやはり二次創作ゲームの作者のネーミングで勝負するしかなさそうですね。

この場合、最適な名前がない上に、「8番出口」に関してはシンプルなタイトルで誰でも思いつくような名前なので、こういうシチュエーションを想定していない「○○版8番出口」を禁止とするというのは少々無茶なような気がします。むしろ、舞台があの真っ白な地下通路ではない、創造性が豊かにみられる8番ライクのパロディーゲームについて「ああ、8番出口のパクリね」などと言われてしまうことの方がもっと残酷です。特にただ動画の視聴数を伸ばすためにパクリとかいう強めの言葉を使って視聴者を寄せるということはあまり好ましくありません。

この事態を避けるためには、ゲーム自体を公開しないか、訴えられる覚悟で公開するしかできませんよね。

営業妨害と商標

スイカゲームのパロディーゲームもとい「パクリゲーム」の例

他方、スイカゲームのパロディーゲームはどうでしょうか。8番出口よりも知名度もあって手軽に作れるスイカゲームでは、パロディーゲームがのさばり回っております。App Storeでは、公式のiOSアプリ『スイカゲーム-Aladdin X』はいわゆる「海賊版」(←?)に埋もれているといったところでしょうか。

こうした事態に対し、スイカゲームの開発元のゲーム動画の制作者や配信者に向けてガイドライン(ホームページ下部)を設けたうえ、スイカゲームの明確な発明者(?)として商標を取得し、開発元を確認するように呼びかけているようです。商標は言葉に関しては創始者で且つ金さえあれば意外と簡単に取れたりしますからね。海賊版対策に対して有効なある種の権威付けとして取得しているということでしょう。

ちなみにこのガイドライン、私みたいにスイカゲームを取り扱うブログや紹介されるメディア向けのガイドラインではないんですよね。私も少々心配ですが、よい解釈をしていただけることを期待しております

ちなみに、スイカゲームの特許を取り巻く状況は、ITMediaによる記事『「スイカゲーム」の偽アプリに対して開発元がアクション 「商標登録を完了」「ゲームタイトルで迷う状況をなくす」』に詳しいです。この記事によると、Aladdin X社としては、具体的な対応を社内で方針を検討の上、最終的にはゲームタイトル名でユーザーが迷ってしまう、という状況がなくなるようにしたいと考えているようであります。

先ほども「パクった分際で商標かよ」という突っ込みを入れさせていただきましたが、Aladdin X社的には副業的に始めたけれども社としては利益が無視できない存在になっていると思うので、もしかしたら取る予定もなかったのかもしれませんが、事態を重く見てとりあえず取ったんじゃないかというのが私の考察であります。

将来的には、こうした「海賊版」アプリのプレイヤー、パブリッシャーへの注意喚起を越えて、「海賊版」が粛清されていくといった展開もあり得るかもしれません。商標を持ってたらできますからね。

やはりカネ、商業的権益を守りたい?

これは完全に私の妄想になるのですが、やはりAladdin X社の思惑としては、普通に営業妨害だと迷惑がっているんじゃないかと思っております。無料で遊ばれてほしくないし、対価としてお金を受け取ることが商標取得やアプリの公開にかかるコストを回収することや「創始者としての権威づけ」を図る狙いがあるんでしょうね。一部のスイカゲームは果物の絵のデザインまで一緒のアプリもあるようですし(削除された?)、悪質な偽物にはしかるべき対応を取りたいんじゃないかと思います。

顧客は誰が最初に作ったかろくに調べないし、海賊版でも見れりゃいいやというマインドですから、やはり営利企業として営利を追求する視点は、こういった「海賊版」対策を行なって正統なバージョンを普及させるべきという考えのもとやらなくてはいけない場合があります。しかも、それが哀しいかな社会からも求められているわけですね。

現代では、もちろん銭稼ぎでやっている人もいると思いますし、そういった人は海賊版を厳しく弾圧したがるでしょう。しかし、倫理的社会的にいいものを作って、そこに感謝の印を示し、プレイヤーが作者に貢献できるようにするために、ある種の社会的な要請によって値段をつけていることもあるんじゃないんですか。

特に二次創作ゲームとかインディーゲームとかはUGCの色が濃い世界ですからね。受け手同士の再解釈と感謝の循環を築いたものがこの世界を制します。その感謝の循環にやりすぎた対策は無用です。

二次創作ゲームに対する原作者の対応に関して

こもスイカゲームについては、スイカゲームのゲームシステムがインディーゲーム界隈に一般化したためどこまで対策するかは微妙なところがありますが、少なくとも第三者から問い合わせがある場合には手間を惜しんでも「私はこのゲームの作者ではない」ということを言わなければならないですよね。

特許や商標は、金と少しの手間さえあれば通るもので、その知的財産に自分に権利があるのなら受理されるのも意外と簡単なものです。パクっているのわかったうえで金取ってるからある意味ダブルスタンダードだと思われかねないわけですが、日本における「創始者」としての矜持を保つためこのような形となったのでしょう。

チェスやソリティアの話じゃないですけども、それが例えゲームシステムだったとしても何かを模倣しないことには創造性は発現しません。コロンブスの卵という言葉がありますが、一度明らかになったアイディアというのは、再解釈と拡散を続けてより良いものが作られていくべきだと思っているので、駆逐するにも駆逐しすぎないようにしてほしいですね。

1ゲームの「創始者」として、さすがに同じプラットフォームでゲームシステムのみならず同じ絵のデザインのものは駆逐されても仕方がないのですが、違うプラットフォームの完コピパクリゲームも含めて、二次創作ゲームも厳しく弾圧するのは違うと思います。何せ「創始者」たちも過去のゲームを再解釈してその要素を取り入れているわけですから。

むしろ、「創始者」たちは、わざわざ手間をかけて二次創作ゲームを制作してくれる人に感謝したり、その人のことを応援してあげたりした方が、より健全なインディーゲーム界隈の発展に寄与すると思われます。

二次創作ゲームを開発する人よ、責任と一次創作者への敬意を忘れるな!

著作権法に厳格に従わなければならないのなら、「オリジナルこそ正義」で、二次創作ゲームはすべて悪になってしまいます。しかし、現行法ではアイデアは著作権で保護されないからこそ、元のゲームがゲーム設計についての特許や実用新案などを取っていることもないはずで、アイデアのみのインスパイアを経た場合、二次創作ゲームは自由に作り放題です。

実際に、消費者の大半はそのゲームが本物かどうかを気にしないことでしょう。良いゲーム体験ができれば、だれが作ったかはあまり関係がないのです。そして、インディーゲームの歴史も、既存のゲームを再解釈したり、オマージュしたりといったことの連続で積みあがってきたジャンルであります。そのため、インディーゲーム界隈では、ただ暇つぶしにさえなれば、「遊べれば何でもよい」という価値観が広まっているような気がします。

しかし、今回、調べてみて、原作者の考えや感情に配慮する必要があると、強く思い知らされました。インディーゲームのあり方については、個人的には何かと評価が吹っ切れがちなので、原作者やいろんなステークホルダーへの影響も考えれば、正しく善いインディーゲーム文化の発展につながるのだと改めて思いました。

創作の上では他人のインスパイヤや情報の再解釈も大事なプロセスです。人の作品を学ぶことで、創造性が広がるのです。私は二次創作を含めて創作を推し進めていきたいところですが、ここはBundrailです。他人に迷惑をかけぬよう、倫理や法律に反するようなことはしてはいけません。

私は以下のような価値観ではありませんが、もしオリジナルこそ正義、至高、そこまで言わなくても、少しでもオリジナルの権益は守られて然るべきという価値観を持つ人のゲームのインスパイアをするならば、それ相応の配慮と覚悟が必要になります。加えて、そんな権益を守ろうとする機運の中で、たとえ権益を守ろうとしていても二次創作を部分的に許容してくれるということは、なかなかない、ありがたいことです。その感謝や敬意の気持ちを忘れずに、謙虚に二次創作ゲームを作っていきましょう。

二次創作ゲーム創作者は、具体的に何に気を付ければよいのか?

結局、大事なことは、自分がインスパイアする元のゲームについてよく知って、原作者の意向を確実に汲み取ること、そしてそもそも問題を起こしそうなこと、同じゲーム設計かつ同じような題材・誤解を招く表現等は避けておくことです。

この世界には、一次創作者や司法からの恩赦はありません。もし地雷を踏みぬいてしまった場合は、「知らなかったお前が悪い」の世界観です。言い逃れなんてない残酷な世界です。もし恩赦があるのなら、私のような非常識的な考えで動いている人たちだと思ってください。これはあくまで私の1つの持論なので、この考えが嘘であっても、最悪こういう慎重な心の持ちようで行っていけば間違いありません。

ですから、何か別のゲームを参考にしてゲームを作った場合は、創作者の意向をよく汲み取らないといけません。そのゲームに対する下調べを怠ってはいけませんね。それは、一次創作あるいは二次創作のゲームのプレイ者についてもそうです。

<あとがき>このような分際ですが、失礼ながら各ゲームの原作者様方に当ブログで取り上げたり、ブログで画像を使用するために許可を得ておりません。製作者の方、もし見ていたらコメント欄または私のXアカウントまでご一報くださると泣いて喜びます。

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